My lovely person

03


船員が各自持ち場で働いているとき、いきなり菊丸の大声が響いた。
「大石ー!!手塚ー!!ちょっと来てー!!」
その大声にビックリしながら指名された2人は菊丸のもとへとやってきた。
「菊丸・・・そんな大声を出すな。皆驚いているぞ。」
「英二、一体どうしたんだ?何かあったのか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!手塚!ちょっと来て!!」
そう言うと、菊丸は2人を引っ張って手塚の自室へと入っていった。
「不二!2人連れてきたよー。」
「ああ。ありがとう。」
「不二、一体どうしたんだ?」
大石が不二に聞くと、不二は部屋の隅のほうを指さして言った。そこには寝ていたはずの少女がいた。
「実は手塚と大石が出て行ったあとすぐに彼女が目を覚ましたんだ・・・」






手塚と大石が出て行って扉が閉まってから数分後、不二と菊丸が小声で話しているとベッドのほうから人の動く気配
がして2人が振り向くと少女がベッドから起き上がって、回りをキョロキョロと見回していた。そんな、少女に2人は近づ
いて話し掛けた。
「大丈夫?」
「!!」
少女はばっと2人のいるほうへ向きすぐ警戒してあとずさった。
「ああ、警戒しなくていいにゃ。俺たちは君に危害を加えたりしないから。」
菊丸がそう言うと、少女は少し警戒を解いてあとずさりをやめた。
「心配しなくていいよ。」
「そうそう、俺たちはあのバカな海賊どもみたいにむやみに人殺しをしたりしないから。」
その言葉に少女ははっとなって部屋の隅に逃げてしまった。
「英二!!」
「えっ?・・・・・あっ!!」
「何蒸し返してんの!せっかくちょっと警戒を解いてくれたのにさっ!」
「ご、ごめん!」
「世の中にはごめんですむこととすまないことがあるんだよ。とりあえず手塚と大石を呼んできて!」
「わ、わかったにゃ。」






「・・・と、いうわけさ。」
「・・・英二・・・。」
「う〜ごめんなさい〜。」
英二があやまるなか全員の視線の先には部屋の隅で座り込んで震えている少女の姿があった。
全員がどうしようかと悩んでいると、1人、少女に近づく者がいた・・・手塚だ。
「「「手塚!!」」」
手塚は無言で少女に近づくと片膝をついて少女に目線を合わせ、話し出した。
「俺たちは海賊で俺はキャプテンだ。そしてお前を勝手にここへつれてきたのは俺だ。しかし、俺たちはお前に決して
危害を加えたりしない。もちろん部屋の外いる者も全員だ。それに、俺たちはむやみに人殺しはしない。そこの2人は
お前に安心してもらいたくてあんなことを言ったんだ。決してわざとお前に嫌な思い出を思い出させようとしてあんなこ
とを言ったわけではない。だから許してやって欲しい。」
手塚がそう言うと、少女は一瞬ビクッとなったが少しして首を縦に振った。
「そうか。ところで、お前は行く宛はあるのか?」
少女は小さく首を横に振った。
「では、お前をこの船に歓迎しようかと思うのだが・・・。」
「あっ!それいい!俺さんせーい!」
「僕も賛成だな。」
「俺もだよ。」
「嫌か?」
少女がびっくりして固まっていたが、首を横に振って手塚に抱きついた。
「お、おい!」
手塚はビックリして少女を見ると、少女は小刻みに震えていた。
「・・・怖かったな。泣きたかったら泣け。」
手塚のその言葉を聞いて少女は堰を切ったように泣き出した。手塚は少女が泣き止むまで背中をさすってあげてい
た。
しばらくして少女が泣き止むと手塚は少女に名前を聞いた。
「お前、名は?」
すると少女は下を向いてしまった。手塚が不信に思っていると、後ろから不二が少女の変わりに答えた。
「手塚・・・彼女は話せないんだよ。」
「えっ!不二どーゆうこと?!」
真っ先に英二が不二に聞き返した。
「さっき英二が手塚と大石を呼びに行ってる間に彼女に聞いたんだ、「名前は?」って、そしたら彼女の口からでたの
は言葉じゃなくて、ただの空気だったんだ。」
「・・・ちゃんと診てみないとわからないけど、精神的なものかもしれないな。」
「それで、名前はわかったのか?」
「うん。僕は読唇術が使えるからね。名前は『リョーマ』だよ。」
「そうか。では、リョーマ、我が征鷽(せいがく)に歓迎する。あとで、ペンとノートを用意するからそれを使え。」
手塚にそう言われるとリョーマは嬉しそうにうなずいた。
「ところで、大石。リョーマを診てやってくれないか。少し熱があるようだ。」
「ああ、わかった。じゃあ、ベッドに座ってくれるかい?」
大石に言われリョーマはベッドに座った。確かにリョーマの顔は少し赤かった。
「まず、体温を計るからこれをわきにはさんでくれるか?」
リョーマはうなずいて、大石から体温計をもらい、わきにはさんだ。大石が準備してる間に不二と菊丸が自己紹介をし
た。
「改めて自己紹介するね。僕は不二周助。周助って呼んでね。リョーマって呼んでいい?」
「さっきはごめんにゃ〜。俺は菊丸英二だよー。英二って呼んでくれにゃ。俺はおちびって呼ぶにゃ。」
「俺は大石秀一郎だよ。この船の副船長兼医者だよ。」
「俺は手塚国光だ。さっきも言った通りキャプテンをしている。」
その場にいる全員の自己紹介が終ると、リョーマはゆっくりと全員にわかるように口を動かした。
[俺は越前リョーマです。あの、助けてくれてありがとうございました。俺のことは呼びすてにしてくれていいっスよ]
どうやら全員に通じたようで全員「「「「わかった。」」」」と答えた。
ふと、不二がリョーマに言った。
「君、女の子だよね?名前男の子みたいだし、自分のこと゛俺"って言ってるの?」
「あー、ほんとだ。なんでー?」
[え。あの、変ですか?]
「ううん。変じゃないよ。ただ、どうしてかなって思って。」
不二がリョーマの言葉を否定すると、リョーマがゆっくり口を動かした。
[名前はうちの親父が男の子が生まれると信じてたからと男の子が欲しかったからなんです。言葉使いは今言ったみ
たいに親父が男の子が欲しかったから男の子みたいに育てられたからなんです。]
「そうなんだ。」
「不二ぃなんて言ったのー?」
「リョーマのお父さんが男の子が欲しかったらしくて男の子として育てられたからなんだって。」
「へー。おちびのお父さんすごいねぇー。」
「あっ、そうだリョーマ。僕たちに対して敬語じゃなくていいよ。」
「えっ。おちび敬語でしゃべってんの?」
「うん。僕たちは仲間なんだから普通にしゃべってくれていいからね。」
リョーマは「わかった。」という風に首を縦に振った。
2人のリョーマへの質問は大石が止めるまで続いた。





そんな中手塚は1人リョーマの名前にひっかかっていた、
「・・・越前・・・か。」